■mission 1-2■


 オランからカゾフへ向かう街道――通称、雲の上の街道――をカゾフ方面へ3時間ほど
歩いた頃合。スカーラが足を止める。
「ここから逸れるんだ」
 見ると、街道わきの足元に一見して握りこぶし大の石がある……が、良く調べればそれ
が人の手によってそこに動かないよう固定されているのがわかる。
 さらにそこから1時間ほど、道なき道を進んで行く。とはいえ、野外活動の技量があれ
ば、人が通った跡やさりげなく目印が置かれていることには気付くが。
 やがて、小高い崖の壁面に金属製の扉が張り付いた光景が目に入る。これは誰が見ても
人工的に造られているとわかるであろう。
「扉はあとから学院がつけたんだけどな」
 魔法の鍵で施錠されており、合言葉によって開閉できる。
「へぇー。魔法って便利だねぇ」ナナセが感心する。
 道を知っていたこともあり、日が暮れる前にはなんとか『外れの遺跡』へ入ることがで
きた。あとは捜索をさっさと終わらせるだけである。
 内部構造はいたってシンプルで、いくつかの区画が通路でつながっている程度。何もな
ければ全部の場所を調べるのに30分とかからない……はずである。念のためアーティが
扉ごとに罠を調べているが、鍵すらもかかっていない。
 もちろん暗いので、ランタンとたいまつを頼りに進む。ちなみに、古代語魔法のライト
はあいにくスカーラしか使用できない。エルフのアーカロは明かりなしでも普通の暗闇で
あればまったく問題なく動ける。足取りも軽い。
 特に何事もなく、実験用の部屋や物置などを一通り覗いて……一番奥にある危険な実験
用の部屋の前まで一同はやってきた。
「この部屋は……爆発系とかガス系とか、そんな呪文の実験に使ってたっけ」
「物騒だなぁ」と言いながら、アーティが扉の罠を調べ始める……この扉も最近開けたよ
うな跡がある。罠はなさそうで、鍵もかかっていない。
「開けるよ」
 ナナセが少し扉を開けると、その部屋は明るかった。今まで見てきた中では一番広く、
奥行きがある。自然光ではない……おそらくライトの魔法であろう。その光源は正面にあ
る壁の上方のようだ。そして、部屋の中に見た目、アーティくらいの大きさの石像3体。
 全員持てる知識を総動員するが、おそらく魔術で作られているであろうこの石像たちの
詳細まで知っていた者はいなかった。
「こんなもん前からいたか?」スカーラが首を傾げる。
「いや……だが、破壊しても構わんだろう」ヴォルグはすでに矢を装填済みのクレインク
イン・クロスボウを準備している。
 扉を完全に開ける……と、案の定それに反応して石像が動き出す。
 ひらり、とアーカロが踊り込み精霊語で呼びかける。<貫け、火の精霊よ!>
 その言葉に呼応して、アーカロが手にしているたいまつから炎が一筋、石像のひとつへ
勢い良く飛んでいき命中……炎が弾けた。石像はひびが入りながらも、怯むことなくこち
らに向かってくる。それほど動きは速くない。
「いまこそ、俺の華麗なるテクニックをっ」
 アーティがダーツを構える。華麗に投擲……だがその軌道は石像にかすりもせず後方へ
乾いた音を立てて落ちた。
「ああっ、俺のダーツがっ」
 なにやらショックを受けているアーティの脇から、フデラがボーラを勢い良く投げつけ
る。これは石像を少し欠けさせたようだ。
<万物の根源たるマナよ……光の矢となりて疾れ!>
 スカーラの上位古代語が響き渡る、と光の矢が現れ石像に命中する――これも、欠けさ
せるものの致命打には至らない。
 ヴォルグがクレインクイン・クロスボウで石像のひとつを狙い撃つ……命中。さすがに
威力の大きい武器だけあり、いい感じに半壊させることができた。ただし、矢を装填する
ために時間がかかり連射ができない。
 最後に、ナナセが愛用のバスタード・ソードを片手に突撃する。
 石像たちが破壊され床に粉々になるには、そう長い時間はかからなかった。

 部屋には他に、特に変わったものは置いていない……というよりも、石像の残骸以外は
何も見当たらない。
 アーティが部屋の壁を調べてまわるが、特に変わったものは発見できなかった。最後の
頼みで「センス・マジック」――魔力を感知する魔法――をスカーラがかける。と、部屋
の中央やや奥寄りに、円柱のようなオーラが見て取れた。
「その辺に魔法がかかってるみたいだな」
「僕たちには見えないけど……なんだろう?」
 ナナセは落ちている石像の残骸から、大きめのものを拾って"その辺"に放り投げてみる
……と、石は空間で忽然と消えた、ようにスカーラ以外には見えた。
「転移か何かだろうな……状況的にみてこの先にお嬢さん方がいる確率は高い」
「そっかー、じゃ行くっきゃないね〜」
 ヴォルグが言い終わるか終わらないか、すでにナナセは“その辺”と言われたあたりへ
スタスタと歩いている。そして――ナナセの姿が消えた。
 結局、全員ナナセの後へ続いた。だが、行った先で一同は3人ずつに分断された。

 ナナセ、アーティ、そしてフデラの3人は、やや広い空間へ出現していた。その空間に
明かりはなく、石造り……先ほどまで居た場所とあまり変わらない雰囲気である。
「ここってさっきの遺跡の続きなのかなぁ?」
 ナナセが疑問を口にするが、知っているであろうスカーラやヴォルグはここにはいない。
 その場所を調べると、開いていないおそらく木でできた扉が2つ、そして開け放たれた
扉がひとつ。奥へは通路が続いているようだ。3人はそちらの開いている扉の先へと進む
ことにした。

 スカーラ、ヴォルグ、そしてアーカロはどうやら部屋のような……というのもやや狭く、
何も置いてはいないが棚や、扉が見える、そんな場所にいた。
「こんな場所があるとは、聞いたことがないが……」
 ヴォルグは周囲を油断なく見回す。
「お嬢ちゃんたちが何かやらかしちゃったんだろうよ。ま、進むしかないね」
 スカーラが扉を調べるが、特に罠もなくすんなり開く。
 扉を開けると、通路が伸びていた。10歩も行かないうちに、右手に扉が見える。
 調べると、変化があった。この扉には物理的な鍵がないにもかかわらず、開かない……
つまり魔法の鍵がかかっている。
「ビンゴかな?」
 と、先の通路に明かりが見えた。多少警戒したものの、すぐにそれはナナセたちである
と判明する。あっさりと合流できたのは運がよかったのか。
 状況を簡単に説明すると、スカーラは開錠の呪文を唱える。はたして、扉は押すと簡単
に開いた。
 その中は、これもまたかつては誰かの住居だと思われる空間であった。木材の枠組みだ
けが残って元はベッドだったようなもの。何も置かれてはいないが棚のようなもの。椅子
とテーブルのようなもの……家具と思われる物体が半壊状態で散乱している。
「だ〜れか〜〜い〜ませ〜んか〜〜」
 ナナセが部屋の中で呼びかける。返事はない。
「エミーナ・レイアードさーん」
 名前でスカーラが再度呼びかける。
「……だれっ?」
 奥から声――そちらを見ると本棚? の陰から金髪の女の子が覗いている。
 ナナセは肖像画を見ていたので確信した。
「エミーナちゃんだね〜」
「そ、そうだけど、あなたたちは……」
「あー、君の兄貴に頼まれて迎えにきたんだ」
 スカーラが簡単に説明する。兄と父親から捜索を依頼されたこと、一緒に出掛けたであ
ろう他の3人もまだ帰ってきていないこと。
「アスカたち……も、まだ帰ってないの?」
 一瞬安心しかけたのも束の間、また不安に表情が曇る。
 とりあえず空腹であろう彼女たちのために、余分に持ってきていた食事を渡す。それを
食べながら、いきさつを話すエミーナ。
「うちで見付けた魔法の品の実験をしようと思って……」
 エミーナの家は古物商だけあって、たまに魔法の品物も持ち込まれる。今回持ってきた
アイテム――首飾りのようである――は、父親の書斎にあったものだ。その裏には上位古
代語と思われる文字が刻んである。普通に読んだのでは何も起こらなかったが、実はある
法則で文字を読み替えると起動をするらしい、というのを彼女たちはつきとめた。実際に
やってみようということで、この遺跡で実験をしたというのが経緯である。
「どうやら空間がつながる、いわゆるゲートの魔法らしいんだけど」
 ひとりずつ入ってみたのはいいが、着いた先で自分ひとりになってしまった……ので、
怖いのでこの部屋で仲間が助けに来てくれると思って待っていた。
「でも……いくら待っても来ないし、でもひとりでは動けないから途方に暮れてたのよ」
 お腹が満たされて少し気持ちに余裕ができたのか、ちょっと強い口調になっている。
「あまり時間が経つとまずいな……とりあえず残りの面子を探そう」
 ヴォルグが立ち上がると、他の者もそれに続く。アーティは部屋の中を物色していたが、
廃材とホコリしかない……遺跡潜りにしては今回はシケているなぁ、とぼやく。

 部屋を出て右へ通路を進むと、突き当たって左右に分かれている。右からナナセたちが
来たので、左へ行こうということになった。やや進むと扉。
 アーティが罠と鍵を調べにかかる。ここにも誰かが先にこの部屋に入った形跡があった。
 ナナセが少し扉を開けて中を見てみる……ここも魔法の明かりが点いていて、そこそこ
広く、家具など一切ない。そんな空間の中央あたりに、彼は立っていた。チェインメイル
を着込んだ、黒い髪を短く刈った……ナナセといい勝負の体格をした青年。
「……気をつけて、負の生命力を感じます」
 アーカロが緊張した声で告げる。と、部屋の中の青年がゆっくりと顔を上げる。
 ナナセは扉を開け放ち、部屋に飛び込む。ヴォルグ、スカーラ、アーティが続く。
 遅れて中を確認したエミーナが「ラグっ?!」と短く叫ぶ。
『……誰だ』
 その青年――ラグレイスが発したにしては違和感のある、声。どことなく焦点の合って
いない眼。負の生命力感知。そして、発せられたのは何故か下位古代語であった。
「もしや、憑依されているのか?」
 ヴォルグが看破する。
『……また私の邪魔をする者たちか……容赦せんぞ』
 と、今度は上位古代語で詠むように叫ぶ――<雷よ! 光となりて迸れ!>
「まずい、魔法かっ?!」
 スカーラが叫ぶ。
「……痛っ!」
 雷に見える幅広な光が一直線に奔る。うまく散開していたおかげで、直撃はスカーラに
だけで済んだ……これは結構キツい。
「……ライトニングかよっ?!」
 古代語魔法の使い手でもあるので見当がつく。威力がそこそこある、攻撃に用いられる
雷撃の魔法。憑依している何者かも、古代語魔法を行使するようだ。
「直接攻撃しても憑依しているやつにはダメージが行かないはずだ……」
 憑依、負の生命力とくればアンデットであろう。ヴォルグは実際に会ったことはもちろ
んないが、そういうものたちが居ることは、学院で得た知識として思い当たった。そして、
直接の攻撃は憑依されているものを傷つけるだけであることも。
「精神ダメージ……精霊魔法の『シェイド』ならば有効だろう」
 アーカロはヴォルグに向かって軽く頷き精霊に呼びかける――
<闇の精霊よ、彼の者に闇をもたらせ!>
 より集中し、精霊への呼びかけを強くする。現れた闇の球体が、まっすぐにラグレイス
へと飛んでいく……命中し、消滅すると同時に悲鳴があがる。
『ぐはぁっ……よくも……っ』
 ラグレイスに憑依しているであろうアンデットは、いわば精神体である。精神ダメージ
のダイレクトアタックはかなり効果があったようだ。そのためかどうか……ラグレイスの
体が不意に傾いで倒れ、空中に白いもやのようなものが現れた。
『……許さんぞっ……<光よ! 矢となりて貫け!>』
 避けることのできない光の矢が現れ、フデラに命中する。大きなダメージは被らなかっ
たが、威力は地味にある。長引けばそれだけ不利だ。
 その隙に、倒れたラグレイスをヴォルグとナナセが回収する。そしてアーカロの召還し
た闇の精霊が再び白いもや、に命中する。
『私は……こんなところでぇっ……!』
 呪詛の言葉を吐いて、その白いもやは霞んで、消えた。

 結局その部屋の探索をしてみたが、特に変わったものはなかった。先へ進めそうな扉の
類なども見付からない。そんな中、ラグレイスが気付いた。
「よかった……」
 エミーナはいくぶんほっとした表情で呟いた。一方、ラグレイスはといえば、エミーナ
以外は見ず知らずの多数の人間に囲まれているので、動揺を隠せない。
「エミー……と、えっと?」
「あ、気が付いたみたいだね〜痛いところとかない? 大丈夫?」
 ナナセが話しかける。ラグレイスは、とりあえず腕を動かしてみたり、体に異常がなさ
そうなことを確かめてから「これはいったい……」呆然とした口調でつぶやく。
「君は、なぜこんなところにいたんだね?」
 ヴォルグがラグレイスに事情の説明を求める。概ねエミーナと同じような状況であった。
彼もまた飛ばされたのがこの部屋でひとりであったこと、なにやら白いもやのようなもの
が近づいてきて、まとわりつかれたと思ったら気が遠くなり、気が付いたら今こうして囲
まれていた……ということである。憑依されていた間は意識がなかったようだ。
「まぁ割と冒険者の間で発見される、古代の遺跡と呼ばれるところは、魔術師がよからぬ
研究をしていた施設であったりすることが多いからな……ここもそのひとつかもしれん」
「遺跡かぁ……お宝がないけどなぁ」
 ヴォルグの言葉にアーティが拗ねた風に言う。
「とりあえずまだあと2人を探さないと」
 フデラが心配そうに言うと、ラグレイスもエミーナ以外の同行者がいないことに気付く。
「エミー、アスカとベレットは?」
「それが……はぐれたみたいなの」
「よし、じゃあ戻ってみよっか」
 ナナセが皆を促して一同はぞろぞろと遺跡内を移動する。

 ナナセたち3人が最初に現れた部屋まで戻る。開いていた扉以外に、扉が2箇所入って
きた壁側からみて左の壁についている。
「手前から行くか」
 アーティが手前の扉の罠を探る。特にないようだ……鍵もかかっていない。
「張り合いねぇな〜」
「罠とかあったほうが盛り上がるのにねぇ〜」
 ナナセが物騒なことを言う。
「いや、無きゃ無いでいいんだけどさ……」
 扉を開けると、ここもあまり広くない空間であった。他の空間よりは多少物がある……
壊れたテーブル、壊れた椅子、ガラスの破片、風化しかけた羊皮紙などなど。ごみ置き場
か倉庫の成れの果て、といった雰囲気。
 一応、物色するか〜と、アーティはその辺のガラクタをどけていく。視界のすみに何か
映る……それを見逃す彼ではなかった。
(お宝っ?!)
 何気なくその付近を物色する。他のメンバーは部屋を見回したり、話をしたりしている
のでまだ自分の行動に気付いていないようだ。悟られないよう慎重にその付近を調べてみ
ると、ガラクタの陰に宝石らしきものを4個発見した。
(……きたぜきたぜっ!)
 ちら、とアーカロを見る。気付いていないようだ。
 すばやくそのうちのひとつを隠しポケットに忍ばせ……
「おっ、こんなとこに宝石発見したぜっ!」
 アーティは残りの3個をナナセに手渡す。
 スカーラがセンスマジックをかけてみると、うち1個にオーラが見える。
「お、魔晶石か?」
 魔晶石とは魔法を使う術者の精神力を補う便利アイテムである。一応、街でも購入でき
るものである。大変高価ではあるが。
 ひとまずその宝石類はナナセが預かるとして、他にめぼしいものも見付からないことか
ら、一同は先に進むことにする。

 もうひとつの扉、これにも鍵はかかっておらず罠もなかった。
 その先は通路になっていて、やはり扉があったが問題なく開いた。奥の空間……部屋は
ここへ転移する前に一戦交えた石のゴーレムと同じものが3体いたのだが、1分足らずで
あっけなく撃破してしまった。
「遺跡といえば、罠のかかった扉とか手強いモンスターとか、お宝ゲット〜とかさ」
「シケてるなぁここは」
 ナナセとアーティが不満そうにぶつくさ言っている。
「逆に危険すぎる遺跡だったら、僕らでは太刀打ちできませんよ……」
 フデラが後ろからぼそり、と言う。
「まぁ、雰囲気に慣れるとか、肩慣らしにはちょうどいいんじゃないの?」
 スカーラは肩をすくめてみせる。
「今回の目的はそこではない。最後まで気を抜くなよ……甘く見ると痛い目に遭うぞ」
 ふとすると気分が緩むこのにわかパーティーをヴォルグが軌道修正する。
「……かすかに風の流れがある」
 アーカロは入ってきた扉を背にすると対面の壁に、開いた扉があることに気付く。その
 向こう側から、微かにではあるが風の流れを感じられた。つまり、外につながっている
可能性があるのだ。
「進みましょう……早く新鮮な空気を吸いたい」
 扉の先の通路を進んでいくと、しばらくいったところで先が崩れて進めなくなっており、
 その横に人ひとりが手膝をついてやっと通れそうな穴があった。金属の厚手な鎧を着て
いたら通り抜けが難しそうな大きさだが、幸いここにいる者たちは軽装である。
 多少、土に汚れながらも進んでいくと、外に出ることができた。すっかり日が暮れてい
て辺りは暗い。まったくの暗闇ではないので、たいまつやランタンがなくてもぎりぎり足
下が見える程度ではあるが……木立の中、数メートルの高さの崖に穴が開いている。木立
は鬱蒼、とまではいかないが、そこそこ密生している。空を見上げても月や星が見づらい
ので方向がいまいちわかりにくい。
「ここにある木は、遺跡の入り口付近にあったものと種類が同じだから、それほど離れて
はいないんじゃないかと思いますが……」
 フデラが周囲を見回して言う。
そして、最近できた足跡――人のもの、をアーティが発見する。
「おそらく、2人分……これじゃないか?」
「よし、行ってみよ〜」

 足跡を追跡しながら数十分歩くと、小屋のような建物が前方の木立の隙間に見えてきた。
明かりは点いておらず、建物自体もやや廃屋の感じがする。
 ナナセが扉を開けるが、さすがに内部は暗い。
「だ〜れか〜〜い〜ませ〜んか〜〜」
 呼びかけてみる。
「アスカ、ベレット、いないのかーっ」
 ラグレイスが呼びかけてみる……すると、奥の暗がりから声が返ってくる。
「ラグかっ?!」
 フデラがランタンに火をつけ、明るくしてみる。金髪の青年と赤みがかった褐色の髪の
青年が壁際でしゃがみこんでいる。
「アスカ、ベレット……よかった、無事だったのね」
 エミーナが安堵のため息をつく。
「エミーたちこそ無事でよかったよ……僕、もうどうしようかと……」
 赤毛の方が、安心したのか涙ぐみながら言う。それを見て、金髪の方が言う。
「無事には無事なんだが……アスカが……」
「ケガでもしたのか?!」
 ラグレイスが反射的に聞く。
「………………お腹空いて動けないよ、もう」
「なんじゃ、そりゃ」
 おもわず突っ込むアーティ。

 目立った外傷といえば、どこかで転んだときにつくった擦り傷くらいで、二人とも空腹
以外では元気であった。運が良いというべきか。空腹を、もらった食料で少し回避できた
ところで金髪の方はベレット・ランダース、赤毛の方がアスカ・グランネルと名乗る。
 改めて、エミーナとラグレイスもそれぞれ名乗り、ナナセたちも自己紹介をする。
「僕はナナセ、エミーナちゃんのお兄さんに頼まれて助けにきたんだよ☆」
「兄様から?! ……もう子供じゃないのにっ」
 なにやら憤慨している。その仕草が子供っぽいなぁ、とスカーラは思ってしまうのだが。
「ベレット君、きみのお母様からも捜索を頼まれているよ」
「……っな」
 ヴォルグが言うと一瞬動揺するも、咳払いをして虚勢を張るベレット。
「そ、捜索だなんて母上もオーバーな。とにかく、一刻も早く帰らないとな」
 全員、ここがどこだかはっきりと把握はしていなかったが、周囲の様子からおそらくは
それほど街道や街から離れてはいないであろうと推測する。まずは道を見付けられれば、
街まで帰るのは難しくないはずだ。
 1時間も歩くと、思惑通り街道を発見した。さらにその街道で、すれ違った旅人に話を
聞くと、オランまでは数時間であるという。
「へぇ〜意外と近くだったんだねぇ」
 ナナセが能天気に言う。対照的にフデラが疲れたように呟く。
「近くでよかった……山奥とかだったらどうなっていたか」

 こうして、てんやわんやで無事、オランまで一同はたどり着くことができたのは深夜、
日付も変わろうとしている時分であった。

 街に入り、スカーラとヴォルグはベレットとアスカ、ラグレイスを送りに貴族屋敷街へ
向かった。そのままそれぞれ家へ帰るほうが近い。
「では……私は先に宿へ戻っていますよ。あまり大勢で押しかけても迷惑でしょうしね」
 アーカロはナナセたちと途中で別れる。
 ナナセ、フデラ、アーティの3人はエミーナを連れて、店へと向かった。



 すっかり寝静まった街に足音が響く。ほどなく、店が見えてくる……と、今は店の扉は
閉まっているが、その前にランタンを持った人影がある。近づけば、ナナセにはブリット
であることがわかった。
「あ、司祭様〜」
「やぁ、おかえり。ナナセくん、すまなかったね」
「あ……その、兄様……」
 エミーナはナナセの陰に隠れるようにして、バツが悪そうに話しかける。
「……エミー、皆さんにちゃんとお礼は言ったのかい?」
「え、あ、それはその」
 うろたえる妹を見て軽くため息をつくと、苦笑を浮かべてブリットが言う。
「無事に連れ戻してくれてありがとう」
「……あ、ありがとう。助かったわ」
 どうやら、あまりこういうシチュエーションは得意ではないらしい。腰に手をあてなが
らそっぽを向いてで、およそ謝る態度に見えない。ナナセたちも苦笑せざるを得ない。
「なんやねん、可愛くないなぁ」
 アーティが呆れたように言うと、エミーナは「な、なによっ」と口を尖らす。
「はは……礼儀がなってなくて申し訳ない」
 ブリットはグーでエミーナの頭を小突く。
「……ったーい」
 小突かれた頭を押さえて抗議するエミーナ。
「今日はもう遅いから、明日改めてお礼させてもらうよ。『狸穴亭』にいるんだね?」
「ええ。では、僕らはこれで……」
 こうして、無事に依頼を果たした一同は宿へ戻る。



 アーカロはまた盗賊ギルドに顔を出していた。エミーナ・レイアード失踪の件が、ただ
の迷子であったことを知らせにきたのである。
「彼女はもう家に帰っていると思いますよ」
 世話役は、ネタになりそうな話ではなくなったので「そうかぃ」と言って面白くなさそ
うな表情になる。
「しっかし、ただの迷子とはねぇ」
「そうですね、面白い場所で迷子になっていましたよ」
 アーカロの言葉に世話役は瞬間、表情を変える。
「……なんでぃ、思わせ振りじゃねぇか」

 あの遺跡に価値があるかは果たして不明であるが、盗賊ギルドとしては興味を持ったよ
うである。おおまかな場所だけ、それ以外の詳細については伏せてアーカロは世話役に情
報を売った。人間の世界で生きていくには、路銀が必要である。妹が見付かるまで、故郷
には帰れない。それがいつまでかかるのか見当がつかない――使えるものは使わねば。
 妹の情報らしきものがギルドには入っていないことに少し落胆はしたが、引き続きその
情報収集を依頼して、アーカロも宿へと戻る。



 スカーラたちは、貴族屋敷街に入る前にアスカ、ラグレイスと別れた。
 ランダース家の敷地へは、今度は家人がいるためすんなりと通れる。
「お坊ちゃま、お帰りなさいませ」
 執事風の初老の紳士が出迎える。続いて、母親が急ぎ足で奥からやってくる。
「ベレット! まぁ……無事なの?!」
「母上……すみません、帰りが遅れてしまいました」
 安堵の表情で、ランダー夫人は息子を見やり、そして後ろにいるスカーラとヴォルグに
礼を述べる。
「ありがとうございました……このたびは愚息が世話になりました」
「ええ、ご無事でなによりでしたよ」
 スカーラとヴォルグは『賢者の学院』の生徒であること、ヴォルグは実家が商店を営ん
でいることを明かす。スカーラが先手を打つ。
「詳しいことは、ベレット君からお聞きになったほうがよいでしょう」
 プライドってもんがあるだろうしね……とは口には出さない。
「お礼をさせていただこうと思いますわ。明日、改めてスタンレーさん、あなたのところ
へご連絡すればよろしいかしら?」
「ええ、構いませんよ」
 これで、男爵家とはいえ貴族へのコネが出来る。悪い話ではない。

 ランダー家の屋敷を辞したふたりはそれぞれ、学院の寮と実家へと帰っていった。



 翌日。
 昼時を過ぎたあたりの『狸穴亭』で6人は再び顔を合わせていた。
「あんたら、レイアードの旦那が店に来て欲しいって伝言してったぜ」
 宿の主人からそう聞いた一同は、レイアードの店へ訪れる。

「今回は、うちのじゃじゃ馬が面倒をかけて済まなかった」
 主人はクリオス、と名乗り昔は自分も冒険者であったと明かす。
「うちの店にあるものでは申し訳がないが……よかったら好きなものをひとつずつ持って
いってくれたまえ。役に立つかもしれない」
「え、いいんですか?」
 中には魔法の品物もある。買おうと思えば売っているものもあるが、そう簡単に手には
入るものでもないので素直に喜ぶ冒険者(?)たち。



 こうして、このパーティーの物語が始まったのである。

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