■mission 2-1■


 アレクラスト大陸、東の大国オラン。
 三角塔、と呼ばれる魔術師、賢者が集う最高学府『賢者の学院』。
「お呼びですか、導師様」
 スカーラとヴォルグはある部屋を訪れていた。この部屋の主に、朝から呼び出しを受け
てやってきたのである。
(何かしくじったか……?)
 スカーラは、内心ひやひやしていた。何か呼び出されるようなヘマをやらかしたか……
思い当たるフシがいくつかあるので、気が気ではない。
「ああ、ご苦労様」
 部屋の主は、立派なオーク材の机上に高く積まれた書類を片付けているところのようで、
片手に羊皮紙を持ったまま顔を上げる。呼び出した本人、ティーダ・トレイル導師であろ
う……やや長めの黒髪を鬱陶しそうに払いながら立ち上がる。
「ええっと、ヴォルグ君にスカーラ君だね」
「はい、トレイル導師」
 二人とも直接この導師に師事したことはないので、面識はない。
「頼みたいことがあって、来てもらったんだ。荷物の運搬と護衛なのだが」
 いわゆる『おつかい』か……なぜ我々に? との疑問が脳裏を過ぎる。
「それは、学院の依頼でしょうか? 荷物というのは?」ヴォルグが問う。
「ここには無くてね。詳細はレイアードの主人に聞いてほしい」
「レイアードって……」
 つい一昨日の出来事を思い出す。エミーナ・レイアードという少女を外れの遺跡まで探
しに行って一騒動あったばかり……その件と何か関係があるのかを疑うのは自然であろう。
「いや、適任者を探していたら、ちょうどエミーナ・レイアードからいい人材がいるとい
うので教えてもらったんだよ」
 とりあえず、懸念していたこととは方向性が違うようで、スカーラは内心ほっとする。
「個人的な依頼なもので、多少なり信用があったほうがいいからね」
「そういうことですか……承知しました。では、我々はこれからレイアードの主人を訪ね
ればよいのですね」
 今から向かえば昼前には着けるであろうということで、二人は部屋を辞した。

 オランの街中、活気がある商業地区を通り抜けて、スカーラとヴォルグはレイアードの
店へと向かう。あくびをしながらスカーラがぼやく。
「……昨日の今日で依頼って、俺たち冒険者扱いかねぇ」
 まぁ、冒険者という身分に憧れないこともない。机にかじりついているだけでは得られ
ない知識や技術を磨くこともできる。うまくすれば一攫千金のチャンスもある。成功した
冒険者がたとえ一握りのラッキーな者たちで、その英雄譚が多少なり美化されていても、
それでも人を惹きつけるには十分だと思う。
「冒険者ほどハイリスク、ハイリターンなことはしていないと思うのだが」
 スカーラもヴォルグも、生活は安定している。敢えて冒険者のような行動をする必要は
ない。エミーナ・レイアードの件がなければ、今後もなかったかもしれない。
「まぁ、たまには街の外に出るのもいいものだがな」
「たまには、ねぇ〜」
 のんきな会話を交わし、ほどなくレイアードの店へ二人は到着した。



 冒険者の宿『狸穴亭』では、ナナセ、アーティ、フデラ、そしてアーカロの4人が同じ
テーブルで遅めの朝食をとっていた。4人ともここを定宿にしているので、食事などでは
割と同じ時間に顔を合わせる羽目になる。
 成り行きとはいえ、依頼をひとつ共に達成した仲である。昨日の今日で、無視して離れ
て座るのもなんだか居心地が悪い――といった感じではあるが。
 そんな微妙な空気の中、宿の主人が彼らのテーブルに寄ってきた。
「おぅ、お前さんたち。レイアードの旦那から指名の依頼があるんだが」
「レイアード……あぁ、あのおっさんか〜」
 アーティはあまり興味なさそうに、目の前の固いパン攻略に必死になっている。
「また何か厄介ごとかな?」
 と、サラダをつつきながらナナセ。
 アーカロは無言で食後のお茶を楽しんでいる。
「また、って失礼じゃないかなぁ……ともかく、依頼って何ですか?」
 フデラが皆をたしなめて、応対する。その様子に苦笑する主人。
「んー、まぁ詳しい話は俺も聞いてないんだけどさ。ちょいと荷物運びをしてほしいって
ことだったな。とりあえず、直接聞きに行ってくれれば助かるんだが」
「荷物運びかぁ。商売品でも運ぶのかな」
 レイアードの店は古物商ということで、遺跡で発見された品物なども扱っている。この
宿屋『狸穴亭』の主人とレイアード古物商店の主人はその昔、冒険者仲間だったというこ
とである。宿に宿泊する冒険者からの持ち込み品も多少はあるのであろう。ナナセたちも
先日の依頼をクリアした際、報酬としてマジックアイテムなどを貰ったりしている。
「俺たち程度に頼むんだから、大した荷物じゃないんじゃね?」
「でも、仕事をもらえるのは有難いことですよ」
 フデラは宿の親父に了解の意を伝える。
 特に取り立てて急ぎの用事もないことから、4人はこの依頼内容を聞いてみようという
ことになった。食事後、早速出掛けることにする。



 まだ昼に少し早い時間。レイアード古物店の豪奢な扉は開け放たれている。
 ヴォルグとスカーラは薄暗い店内へと入っていく。
 店内ではエプロンをつけた若い男が、雑巾とハタキを持ってうろついていた。どうやら
先日も居たアルバイト君である。
「ご主人に依頼を受けて、学院から来たのだが」
 ヴォルグが取り次ぎを頼むと「少々お待ちくださいー」と言って奥へ引っ込む。
 ほどなく、クリオス・レイアード――店主が現れた。
「やぁ、すまない。ティーダに依頼した件だね?」
「はい。今朝方、トレイル導師から承りました」
「ありがたい。ところで、君たちだけかな?」
 その言葉を聞いて、スカーラとヴォルグは顔を見合わせた。
 店主はちょっと考える素振りを見せる。
「……ふむ。では、宿屋組が来るまで少し待とう」
 とりあえず2人は商談に使われているのであろう、品の良い調度品が配置された、落ち
着きのある応接間に通された。
「あいつら全員来るのかな?」
 出されたお茶をすすりながら、スカーラが言う。
「パーティーとして依頼したいということか……これは結構、面倒くさい仕事の依頼かも
しれないな」
 ヴォルグとスカーラで用が済む程度であれば、たいした依頼ではなかっただろう。だが、
きちんとした(?)冒険者パーティーに依頼をするとなると、多少なり厄介であろうことが
予想できる。
「俺たち、パーティーに見られてるのかな」
「まぁ少なくとも、我々が冒険者には見えないのは確かだ」
 そんなこんなで雑談をしていると、ほどなくして部屋の扉が開き、ナナセ以下の面々が
入ってきた。
「あれぇ? こんなところで偶然だねぇ」
 ナナセが、ふかふかそうなソファに座っているヴォルグたちを見て言う。
「偶然じゃないさ。俺たちも呼ばれたんだ」
「そうなの? じゃあまた一緒に依頼を受けるのかな」
「まずは掛けてくれたまえ」
 後ろから店主が声をかける。全員が座ると、一息ついてから説明が始まった。
「わざわざ来ていただいて済まないね。荷物の運搬を頼みたくて、人を探していたんだ」
 店主によると、荷物をオランの第2都市ブラードまで運ぶ仕事を依頼したいとのことで
あった。普段、遠方への買い付けや運搬などは、店主自身が赴くようにしている。だが、
今回は都合がつかないため、運搬と護衛を兼ねて信頼できる人間を探していた――と概ね
こんなところでお鉢が回ってきたようだ。
「今回は私が同行できない代わりに、息子が同行するよ」
 一瞬、誰だろう……と脳裏を疑問が過ぎったが、
「あ〜、イケメン司祭様か〜」
 ナナセがそう叫んだため、「ああ」と納得する一同。
 それには苦笑で返し、店主は具体的な内容と、報酬などの話を一通り終える。
 一同は翌日出立ということで、準備などのためにレイアードの店を辞した。



 前回の報酬や今回の支度金で、装備などを揃えたり備品を買い出したりとで時間は過ぎ、
翌日の朝にレイアードの店前まで一同が赴くと、そこには2頭立ての幌つき馬車があった。
 荷積みなどは終えているらしく、御者と思しき人物と店主、イケメン司祭ことブリット
が荷馬車のそばで立ち話をしている。
「あー、司祭様〜おはようございます〜」
 ナナセが挨拶をすると、
「やぁ、ナナセくん、皆さん。今回はよろしく頼むね」
 気さくな感じでブリットが返事を返す。
「荷物はもう積んであるから、いつでも出発できるよ」
「馬車での旅なんて豪勢だなぁ〜」
 アーティがそう言うと、フデラやナナセも頷く。オラン地元組以外は、一応冒険者とし
て他所からやって来た者たちである。あまり乗り物を使うような旅は、経費がかかるので
選択しないのが基本となる。また、自前で馬や馬車などを持つという冒険者はまず居ない。
それについては経費だけの問題ではないのだが、さておき、意外と快適な旅になりそうで
一同はお気楽に出発したのだった。

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