■mission 2-2■


 まずはお隣の港町カゾフを目指して出発。歩いても3日程度の距離なので、2日ほどで
何事も無く到着した。港町ということで主な産業はもちろん漁業である。新鮮な魚料理が
嗜めるが、今回は先を急ぐということでほぼ素通りとなった。
 そこからさらに馬車で4日ほど行くと、目指すブラードである。ずっと街道を行くこと
もあり、危険はさほどない旅……の予定が案の定、ハプニングが待ち受けていた。

 翌日はブラードに到着という距離までやってきた一行。夜営中に、盗賊と思しき連中に
襲撃される。見張りで起きていたフデラとアーティはその気配に気付く。
「誰だ? ……って言ってもまぁ知り合いってこたぁないか」
 闇に紛れて現れた盗賊たちは5人。少しいい武具を持ったリーダーらしき者がお決まり
の台詞を吐く。
「ヘッヘッヘ……命が惜しけりゃ金目のもん置いてきなぁ〜」
 異変に気付いて、パーティーメンバーも目を覚ます。寝込みを襲われることは避けられ
たようである――その状況を悟り、リーダーらしき者は軽く舌打ちをする。だが、剣を抜
くと余裕の笑みを浮かべ、じりじりと近寄り始める。
「俺たちに勝てると思ってんのか〜? ああ?!」
 凄んで見せるリーダーを先頭に、手下たちも凶器を手に、間合いを詰める。
 そこへ、お構いなしに無言でヴォルグが装填完了しているクロスボウを放つ。
 その矢は狙いたがわず、盗賊の一人を勢い良く街道脇の木に縫い付けた。
 沈黙。
 その様子には敵だけでなく、味方もやや怯み気味なのは否めない。
「ふ……ふざけやがってぇ!」
 なかば、やけくそ気味に盗賊のリーダーが突っ込んできて乱戦となった。
 前衛となり得るのは、戦士の心得もあるナナセとヴォルグくらいである。スカーラは古
代語魔法の使い手、アーカロはエルフの種族特性とも言うべき精霊語魔法に長けており、
フデラはマーファの神官ではあるが戦闘技術はそれほど磨いていない。アーティは盗賊技
術で戦えるが、基本的には暗殺技術に通じるものであるから、力押し戦闘には向かない。
そしていずれも装甲的には紙=薄いので、意外とこんな場面はピンチなのである。
「よぅし……今こそ俺様のダーツが火を噴くぜ!!」
 アーティが意気揚々とダーツを放る……実は先日の救出依頼時にも戦闘があったのだが、
あまりにもへっぽこな投擲でパーティーメンバーから呆れられていたのである。
 だが、そんなことは関係ねぇ! とばかり乱戦の輪の中へダーツは勢い良く放たれた。
「痛っ!!」
 あろうことか、というよりもご期待通りに味方……フデラに命中。そのうえ当たり所が
悪かったのか一撃必殺、フデラ昏倒。
「…………なにやってんだよーーーーっ?!」
 ナナセもさすがに大慌てで声が裏返る。刺さっても昏倒するようなダメージがいくとは
思ってもみなかった面々は、さらに引き気味。
「あ、あれ?」
 当てた当人も何が起きたのか一瞬、状況を把握できない。
「乱戦で投擲武器なんて使うなよーっ!」
 かくして、グダグダになりながらも的確に敵を仕留めていき、フデラの尊い犠牲のみで
戦闘は終了とあいなった訳である。
「いやぁ、わりぃ……しかし気持ちよく刺さったなぁ」
「……もう、過ぎたことはいいですけど」
 戦闘終了後に回復魔法でなんとか復活したフデラは、不満そうにアーティの謝罪(?)
を受け流しつつ、回復魔法が使える人間が自分以外にいてよかったと心底思うのであった。

 その翌日、一行はブラードへ到着。
 真っ直ぐに目的地である冒険者の宿『銀竜の牙(ぎんりゅうのきば)』亭へと向かう。
 建物の造りとしては典型的な感じで、宿部分と雑貨屋的な店部分とが見て取れる。更に、
厩舎もあるようだ。荷馬車も預けられるようで、そこそこ大きな宿である。
「へぇ〜、儲かってそうなお店だねぇ〜」
 ナナセが率直な意見を述べる。
「そうだねぇ……けっこうここの女将はやり手だからね」
 ブリットがやけに遠い目をしながら言ったのが気になったが、ともかくゆっくり休みた
いということで、一行は馬車を御者に任せて早速店に入っていく。
「司祭様、女将ってことは、店主は女性なんですか?」
 フデラがそう問いかける間もなく、
「待ってたわよ〜! ブリット、久し振りじゃない! クリオスは元気?!」
 何やら叫びながら派手目な容姿の女性が現れた。
 きついウェーブを描く腰まである銀髪。ボディラインが強調されるデザインの真っ赤な
シャツとタイトなミニスカート。高めのヒールの革靴も真っ赤。隙のないメイク、そして
美女の部類に入るであろう顔立ちは、実際の年齢より多少若い雰囲気を醸し出しているよ
うだ。どうにも圧倒される一同。
「あー……えーと、司祭様?」
 なんとか言葉を搾り出すフデラ。
「……お久し振りです、ウェイスターさん」
 どうみても営業スマイルで、その女性にブリットが挨拶をする。
「いやだわぁ〜、セラって呼んでって言ってるじゃない。相変わらずねぇ」
 なんだか見たままの人なんだろうな……と一同は目前のやり取りを眺めながら思う。
「あらあら、今回は賑やかなのね。クリオスが来ないのは残念だけど」
 アクセラ・ウェイスターこと女将は簡単に自己紹介をすると、皆を意外と客席数がある
食堂へと案内する。昼前に着いたので、まだ店の中は閑散としていた。
「とりあえず、くつろいでいてちょうだいね〜」
 そう言うと女将は店の奥へと姿を消した。その瞬間、ブリットが軽くため息をついたの
をナナセは見過ごさなかった。
「司祭様でも苦手な女性っているんですねぇ」
「……なにか誤解をしている発言だね」
 ブリットの説明では、ここの女将はかつて父親――クリオスとともに冒険者として行動
していた仲間であるという。愛用の剣をぶん回し、狂戦士さながらの活躍でパーティーの
主軸戦士をつとめていたとのことだ。
「剣っつーより、ムチの方がなんか似合いそうな気がすんだけどなぁ」
 アーティがぼそりと言う……想像が容易である。
 そんな女王様キャラのような女将は、実はクリオスに想いを寄せていたらしい……が、
当のクリオスが街娘に一目惚れしてしまい、その想いは実らなかったようである。
「なぁるほど……じゃあ今のターゲットは司祭様なんですねぇ」
 ナナセがちょっと意地悪く言ってみる。ブリットはどこか疲れた表情で、肯定も否定も
しないで遠くを見ている。
 ほどなく、早めの昼食がテーブルに運ばれてきた。屋根がある場所での、湯気があがる
温かい食事は久々であるが、それを差し引いても一同は食事に大満足であった。
 食べ終わる頃には食堂は満席で、活気が溢れていた。
「へぇ……やっぱ大きな街の宿だと居るもんだねぇ」
 スカーラが言っているのは、テーブルのいくつかに見える冒険者らしき風貌の面々であ
る。冒険者という稼業は、それほど人口的に多いわけではない。大きな街の大きな宿でな
らば、こうして出会うこともあるが。
「……あの、食後のお茶はいかがですか?」
 ウェイトレスがトレイに人数分、お茶を載せてやってきた。なにやら緊張している風に
見える。視線の先には……ああ、やっぱり〜と面々は納得する。
「ありがとう、いただきますよ」
 微笑を浮かべてアーカロがお茶を受け取る。頬を赤く染め、嬉しそうに彼女はその他の
連中の分をテーブルにトレイごと置くと、呼ばれた別のテーブルへ跳んで行く。
「相変わらずモテモテだよねぇ〜アーカロって」
 ナナセが茶化してみるが、
「そうですか? でも好意は嬉しいですね」
 淡々と語られ本当に嬉しいのかなぁ、と思ってしまわなくもない。
「こんだけ冒険者らしき奴らがいるのに、エルフはあんただけだな」
 エルフの冒険者ともなれば、かなり希少なのかねぇ……とスカーラ。
「だからこそ、外界に出た妹がすぐに見付かると思っていたのですが……甘かったですね」
 これだけ目立てば、少し小さな町にでも立ち寄ればすぐに話題になりそうなものだが、
今までそれらしき情報を得た試しがない。
「大丈夫、きっとすぐ見付かるよ〜☆」
「そうですね、郷里を出てからまだ10年くらいですからね」
「……」
 エルフ族と人間族とでは寿命の長さが違うのだから、10年という月日の長さに対する
時間の尺度というものも違うとはわかる……が、さらっと言われてナナセはちょっと笑顔
がひきつった。
 そんな他愛も無い会話を繰り広げていると、女将が呼んでいるということなので、一同
はぞろぞろと雑貨店の方へと移動をする。
 雑貨店、といっても武器や防具から日用品、旅用品、そして魔法の品物も少しは置いて
いるようだ。冒険者が持ち込むアイテムなどの買取りも実施しているためである。
「マジックアイテムの鑑定もできるんですか?」
 フデラが興味ありげに女将に聞く。
「そうね、魔法がかかっているかどうかは私でも調べられるけれど。かかっているのがわ
かったらあとはここのギルドかティーダに鑑定依頼してるのよ」
 今回の依頼が導師からであったのも合点がいった。運んできた中にはマジックアイテム
もあったということであろう。
 ブリットと女将が検品などをしている間、一同は街に繰り出して時間を潰すことにした。
 ブラードはオランの第2都市であるが、人口や街の規模からみると、実はカゾフの方が
若干上である。それでも活気溢れる街であり、海路は整備され貿易も盛んに行われている。
陸路は東方にグロムザル山脈を越える『雲の上の街道』へ続き、隣国アノスの第2都市、
ソーミーへ繋がる。
 その日は馬も休ませようということで、『銀竜の牙亭』に宿泊することになった。

 翌朝、朝食を済ませてから持ち帰る物品の荷積みをする。特産品などもあるようだが、
中には鍵のかかった箱などもある。
「魔法の品物ってこの中にあるのか?」
 スカーラが女将に聞いてみる。
「あるわよ、いくつか。でも詳細がよくわからなかったから、ティーダにやらせるわ」
 高位の魔術師を使い走りか……と呆れなくもないが、かつての仲間となればこんなもの
だろうか。むしろコネとしては最高だな――とスカーラは思う。だが、自分は安請け合い
は絶対にしないぜ、と心に誓う。
「中身って見れないの〜?」
 ナナセが興味深々で言うと、
「別に見てもいいわよ」
 あっさりと鍵を外し、箱の中を見せてくれる女将。そこにはアンティークなデザインの
首飾り、てのひら程の大きさの箱、鞘に入った細身の剣が収められていた。
「魔法の武器か〜。高いのかな、これ?」
「まだ鑑定できていないし、値段はつけられないわねぇ」
 スカーラ以下、いくらか目利きのできる者が鑑定してみるが、やはり魔法の品物である
以上のことは判明しなかった。
 荷積みも終えたので出発することにする一同。
「じゃあまた〜クリオスにもよろしく伝えてね。今度は私が遊びに行くからって〜」
「……はぁ、まぁ。ではまた」
 なにやら曖昧な返事を残してブリットは逃げるように御者台へ滑り込む。
 こうして、一同はブラードからオランへの帰路へとついた。



 帰り道も何事もなく……という訳にはやはりいかないのである。
 カゾフに到着する前日の夜、襲撃者はやってきた。
 馬車の中で休んでいたアーカロは、異変に気付いて目が覚めた。
(……この気配は)
 同じく馬車の中にいたスカーラ、ブリットを見れば熟睡しているようである。
 否、普通の眠りではないようだ。サンドマン――眠りを司る精霊を強く感じられる。
 試しに軽くゆすってみるが、目を覚ます様子がない。
(呪文による眠り……精霊魔法?)
 少し帆をめくり、外の様子を伺ってみる。

 馬車の外では、見張り番のフデラとアーティが起きていた。と、不意にアーティが会話
の途中で倒れ込んだ。見ると眠っているだけのようだが、いやに不自然だったので周囲を
警戒する――と、暗闇から襲撃者は姿を現した。無言で歩み寄ってくるその姿は、華奢な
エルフの女性……焚き火の明かりで照らされたその肌の色は浅黒かった。
 そして、フデラはまた違った気配を察していた。邪神カーディス……フデラの信奉する
マーファ神にとって宿敵、相容れない存在。おぼろげではあるが、その気配を感じ取れる。
(ダークエルフ!)
 馬車の中で様子を伺っていたアーカロにもまた、その襲撃者は嫌悪すべき相手であった。
ダークエルフ。暗黒神ファラリスに汲みする、邪悪なる種族をエルフ族は忌み嫌う。
 襲撃者は、片手に短刀を持っている程度の軽装である。フデラが目に入っているのかい
ないのか、気にする風もなく近づいてくる。視線の先は、どうやら馬車のようだ。
「止まれっ!」
 フデラは大声で叫んでみる。だが、ダークエルフは止まるどころか走り出した。大声で
仲間が起きることを期待したが、そちらも反応がない。仕方がないので迎撃体制をとる。
 ダークエルフはあっさりとフデラをかわすと、一直線に馬車へと駆け寄った。
「させるかっ」
 追いすがってみるも、相手の方が素早い。惜しいところで手が届かない。
 と、馬車の中から呪文が飛ぶ。
<いけ! 闇の精霊よっ! >
 アーカロが召喚したシェイドがダークエルフを直撃する。精神に直接ダメージを与え、
昏倒を狙うが、精神抵抗力が高いといわれるダークエルフである。たいして効いていない
様子である……が、足止め程度の効果にはなった。
「この眠りは精霊魔法の『スリープ』です! 皆を起こして!」
 アーカロがフデラにアドバイスする。『スリープ』は強制的に対象を眠らせる精霊魔法
である。目を覚まさせるには、精神に干渉する魔法、または解呪の魔法でしか効果がない
……ということをフデラは知っていた。早速『トランスファー・メンタル・パワー』の呪
文で起こしにかかる。消費精神力が少なくて済むため、お手頃な魔法である。
 その間、ダークエルフはアーカロの妨害にもめげず、ひたすら馬車に乗り込もうとして
いた。どうやら何か目的の物があるのではないか、と思う。
 荷台の入り口でなんとか侵入を阻止しつつ、シェイドをぶつけ続ける。と、一瞬の隙を
ついてダークエルフが荷台に入り込んでしまった。荷台の中は荷物のほかに、ブリット、
スカーラ、そしてアーカロが乗っているため狭い。これだけ騒いでいて、なおかつ蹴飛ば
されても起きる気配がないということは、やはり2人もスリープの魔法に抵抗できなかっ
たようである。
 だが、地味にシェイドをぶつけ続けた甲斐があった。ダークエルフが荷物に手をかける
寸前に昏倒したので、アーカロは一安心して息を吐く。
(……狙っていたのは荷物か。だが、何を?)
 スリープを使用した後、攻撃に転じてこなかったのは幸いだった。たった1人で襲撃を
かけてくるほどであるから、実力は意外と高いかもしれない。魔法の撃ち合いになどなれ
ば、被害はおそらく甚大であっただろう。
 とりあえずダークエルフを縛り上げ、全員のスリープを解除してまわる。なかなか起き
ない者もいて厄介だったのだが、落ち着いたところで捕らえたダークエルフに襲撃の目的
などを問い質すことにする。
「さて、いったい何が目的で襲ってきたのかね?」
 パーティの中では一番体格のよい、いかつい感じのあるヴォルグが尋問役をやってみる。
 片手にハンドアックスを握り、凄みを多少効かせて喋る光景を見ていると、気が弱い人
なら話しちゃうかもな〜とナナセは思う。
 だがこちらを睨み付けたまま、ダークエルフは一向に何も喋ろうとはしない。小一時間
ほど問い詰めてはみたものの、まったく埒が明かなかった。結局、実害もあまりなかった
ことと、関わりたくもないということで、翌日カゾフに到着したところで衛兵につきだし
てこの件は終了となったのである。



 とりあえず、その後の旅路は平穏に過ぎ、一同はオランまで戻ってきたのであった。
「ご苦労様。とりあえず無事で何よりだよ」
 クリオスは一同をねぎらった。先に話を聞いた応接間で、旅の顛末を報告する。
 襲撃事件の報告をしている最中、珍しくアーカロが口を開く。
「ダークエルフは、どうやら荷物を狙っていたようです」
「荷物を?」
「ええ、逆に言えばそれしか眼中にはなかったようですね。何か心当たりは?」
 運んできた荷物は、食料品と、アクセラから依頼された品物数点。その中にはマジック
アイテムもあるという……まずはそのあたりを疑うのが妥当というものであろう。
「魔法のかかった品物については、調べてもらわん限りなんとも言えんな……こちらには
ダークエルフに因縁をつけられる覚えもない」
「冒険者やってたんなら、身に覚えのない因縁のひとつやふたつくらいあるかもなぁ」
 アーティがしみじみと言う。自分にはあるというのか……そんな雰囲気であるが。
「さすがにダークエルフにストーカーされるようなら、覚えてるんじゃない?」
 あんな美人さんなら付き纏われても悪い気はしないけどね〜とナナセが軽く言う。
「まったく、本当に聖職者かよ。なまぐさっつーか」
「神様も『人間として自然に生きろ』って言ってるしね♪」
「……自然、というよりそもそも教義が違いませんか?」
 一応、その教義を掲げる神に仕えるフデラは突っ込みを入れておく。

 依頼された荷物の運搬および護衛については、邪魔が入りつつも無事に達成できたので、
店主から報酬をもらいミッションクリアと相成った。
 魔法の品物の鑑定をティーダに依頼するため、スカーラとヴォルグは荷物を持って店主
と一緒に学院へと戻った。ナナセたち4人は『狸穴亭』へと戻る。
 こうして、とりあえずの冒険者パーティーは今度こそ解散……かと思われたのだが。

 本人たちが知る由もないところで、厄介事は静かに忍び寄っていたのである。

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